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目線がいくもの

仕事柄、本屋さんへよく行きます。

 

先日は、所用のため吉祥寺に行ったので、商店街にある本屋「ブックス ルーエ」さんへうかがいました。吉祥寺には、チェーンの大きな書店もありますが、私はこういう個人店の本屋さんも大好き。特にこのルーエさんの品揃えは、なんというか、私の好みなんです。

 

この日は、時々立ち止まって気になった本を手に取ったりしながら、ひと通り店内をウロウロ見て回った後、文庫本を1冊、買って帰ることにしました。

 

その本を手にレジへ行くと「いらっしゃいませ」と、若い女性の店員さんが対応してくれました。

 

「カバーはおかけしますか?」という問いに、お願いしますと答えて、何気なく、その店員さんの名札を見た……はずでした。

 

ん?この名前、どこかで見たぞ?

 

あれ?作家さんの名前じゃない?

 

ってことは、同姓同名?

 

いや、待てよ。あの作家さんの作品名も書いてあるぞ?

 

その店員さんの名札を見た私のアタマの中には、一瞬で、いろんな思いがよぎりました。が、次の瞬間「お待たせしました~」と、カバーのかかった本をごく普通に渡されて、我に返りました。

 

そして、聞かずにはいられませんでした。

「あの~、その名札に書いてあるの、作家さんの名前ですよね?」

「あ、これですか?そうです。私、この作家さんが好きなんですよ。この作品がイチオシです」

「あ、イチオシ……。なるほど~!」

 

そう。このお店では、店員さんの胸元に「自分が好きな作家さんとその作品」を書いた名札(のようなもの)をつけていたんですね。

 

本屋さんに限らず、会計をしてもらっている間って、何気なく店員さんの名札とか見ますよね。別に、その店員さんの名前を覚えようとか、そんな気はサラサラないけど、なんとなく見ちゃう。自然に目線がいく、というんでしょうか。

 

でも、その名札があるはずのところに、なんだか見覚えのある文字があったとしたら……。

 

これはもう、話しかけずにはいられません。うまいな~。こういうアイデアを思いついたこの本屋さん、すごいな~、と思いました。

 

残念ながら、その店員さんが付けていた名札(のようなもの)に書いてあった作品は、私が興味あるものではなかったので、その後の話は弾みませんでした。でも、もし、私の愛読書もしくは敬愛する作家さんの名前が書いてあったら、きっと、その店員さんとひとしきりおしゃべりしていたに違いありません。そしてもしかしたら、本をもう一冊、買っていたかも。

 

ネットショッピングでもSNSでも「レコメンド」という言葉がフツーになっている昨今ですが、こういうレコメンドの仕方は、まさに直接、購買に結びつくレコメンドだなぁと思った出来事なのでした。