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質問する練習

今年は、私が取材をするときに意識していることを、思いつくままに書いてみようと思います。

 

なぜなら、このところ、特に去年は生成AIが話題になったこともあって、「質問力」や「設問力」が注目を集めているからです。

 

取材というのは、取材相手に質問して答えてもらう、ということの繰り返しです。そこから情報を得て、文章にします。だから、質問することというのは、私にとって仕事の一部なんです。

 

この写真は、取材するときの私の相棒、ICレコーダーでございます。音声を録音する機械ですね。「相棒」(とカギカッコをつけると、テレビの刑事ドラマみたいですが)と書くくらい、取材のときにはなくてはならないものです。

 

取材時には、取材先の方にお会いして、その方と私との会話を録音し、その音声を文字起こしして、文章にします。

 

今は、文字起こしをアプリなどがやってくれる時代になりました。でも私は、あえて自分で文字起こしをしています。それは、取材したときの雰囲気を思い出すためです。

 

それで、ですね。取材したときの音声を改めて聞くと、「あ~、私、質問下手だなぁ」と思うことがよくあります。取材して原稿を書くという仕事を、もう何十年もやっているにもかかわらず、です。

 

だから、一般の方がいきなり「質問力」とか「設問力」っていわれても、困るんじゃないかと思うんですね。

 

私が自分で「質問が下手」と思いながらも、なんとかこの仕事ができているのは、若いときに先輩から「こんな質問の仕方では、相手は答えられない」と指摘されたからです。

 

その先輩は当時、私が勤務していたテレビ局の敏腕ディレクターで、素晴らしい取材をたくさんしていました。普段は自分からしゃべるタイプの人ではなく、どちらかというとおとなしい方なのですが、取材相手の話を引き出すのが、とても上手だったのです。

 

実は私は、自分がしゃべりたくてテレビ局で働いていたので、「取材というのは、相手の話を引き出すこと」という意識がありませんでした。その先輩から指摘されるまでは。

 

ある日、私が取材して編集した映像を見た先輩が「編集前の映像を見せてほしい」と言いました。編集前の映像には、私が取材相手に質問している音声が入っています。あのとき、どんな質問をしたのかは忘れてしまいましたが、その、私が質問している場面を見て、普段はおとなしい先輩が厳しい口調で「こんな質問の仕方では、相手は答えられない」と言ったのを、今でもハッキリ覚えています。

 

それまで私は、「質問に答えられないのは、相手のせいだ」と思っていました。でも、違っていたんですね。

 

よく「会話はキャッチボール」といいます。キャッチボールのときは、相手が受けられるようなボールを投げるでしょう。一方で、試合のときには、相手に打たれないような速いボールを投げると思います。

 

質問もこれと同じです。相手に答えてほしければ、相手が答えられる質問をしなくてはいけないのです。

 

私はあの先輩から指摘されて以来、「自分は取材相手が答えられるような質問をしているか?」を意識するようになりました。まぁ、あれから何十年も経ったのに、いまだにできていないと思うこともしばしばですが、少しは上達したと思います。

 

では、どんな風に意識すれば、相手が答えられるような質問ができるようになるのか、私の練習方法をご紹介します。

 

まず、質問するとか答えるというのは「音」です。そこで役に立つのが、写真のようなICレコーダーです。レコーダーでなくとも、スマホのボイスメモ機能などでもOKですが、とにかく録音するといいです。

 

「録音するって、何を?」と思いますよね?録音するのは、アナタの声です。アナタと誰かが会話している音声を録音して、聞いてみるんです。

 

「え~っ!そんなのイヤだ!」という人も多いかもしれません。

 

でもね、人の話し方や聞き方って、長年の人生で培われたクセがあるんです。だから、そのクセを直すには、まず自分にどんなクセがあるのか、客観的に聞いてみることをおすすめします。

 

ここで注意してほしいのは、レコーダーを使う場合でもボイスメモを使う場合でも、誰かと話している「会話」を録音することです。

 

自分のひとり語りを録音しても、話し方や聞き方の改善には意味がありません。録音してほしいのは「話し相手がいるとき、自分は無意識にどのように話しているのか」ということなんです。

 

誰かと会話した自分の声を聞くと

「え~。私って、こんな失礼な話し方をしていたのか…」

「こんな質問じゃ、相手は答えられないよね…」ということがわかります。

つまり、改善すべきところが顕在化されるんですね。

 

改善点がわかったら、あとは練習するだけ。お手本は、NHKなどのインタビュー番組がいいと思います。アナウンサーやキャスターがゲストの専門家などと会話するとき、どんな風に話したり、聞いたりしているのか。そこにポイントをおいて、テレビなどを見てください。きっと、参考になることがあると思います。

 

私は今でも、テレビやラジオでインタビュー番組を見たり聞いたりするのが好きです。そして今でも、プロのインタビュアーの質問の仕方を参考にして、学び続けています。