先日、所用のため浅草の合羽橋道具街へ行ってきました。この写真は、その日に買ったスライサーです。
このスライサーのパッケージ左上には、商品の特徴が書いてあります。赤丸で囲まれた部分です。
せん切り器(2×2mm)
「独自のクランク刃」
「軽い力で簡単」
「握りやすいハンドル」
というのが、この商品の特徴のようです。
でも、私はこの部分を見てこれを買おうと決めたわけではありません。むしろ、この部分は全く目に入りませんでした。
もし、売り場でこれを見たとしても、まったくピンとこなくて、買わなかったと思います。
では、私は何を決め手にしてこれを買ったのかというと……。
はい、こちらがあのスライサーを買ったお店、合羽橋の「飯田屋」さんです。飯田屋さんは料理道具の専門店で、スライサーだけでも数十点はありそうでした。
そんな中から私が1つを選んだ理由は、飯田屋さんのPOPです。
先ほど、商品のパッケージに書いてあった特徴をご紹介しました。
せん切り器(2×2mm)
「独自のクランク刃」
「軽い力で簡単」
「握りやすいハンドル」ということです。
でも、飯田屋さんが付けたPOPには
「にんじんや大根などの細切りに!」
「きんぴらごぼうにも!」
ということが書いてありました。
また、これよりも細く切れるスライサーには
「大根サラダに!」とか
「ふわふわの線キャベツができます!」というようなことが書いてありました。
そういうPOPを読んだから、私はあのスライサーを買ったんです。だって「せん切り器(2×2mm)」といわれても、なにをどのくらいの太さに切れるのか、さっぱりわからないけれど、「きんぴらごぼうにも」といわれたら、「ああ、なるほど」と思いますよね。
ここで、もう一度あのパッケージを見てみましょう。
大根やにんじん、ごぼうやキャベツなんていう言葉は、どこにも出てきません。
ここに書いてあるのは、「自社でどのような工夫をしてつくったか」ということですよね。たしかに、それも大事な特徴なのですけれども。
先ほどご紹介した飯田屋さんのPOPは
「にんじんや大根などの細切りに!」
「きんぴらごぼうにも!」というように、
「使う人がどんな料理をつくるのか?」ということまで考えて書いています。
これが大きな違いです。
ライターである私は、企業の方からご依頼を受けて、ホームページなどに掲載する「お客さまの声」の記事を書くことがあります。その企業のお客さまから直接お話をうかがって、それを文章にするという仕事です。
そういう仕事のとき、まさに前述のような「ズレ」を感じます。
企業側は、サービスや商品開発などにおいて自社が工夫や差別化をしたところを強調したい。
お客さま側は、企業が強調したいこととは違うところに魅力を感じて、そのサービスや商品を使っている。
この「ズレ」は、なにによって起きるのでしょうか?それはおそらく、企業側が他社との差別化を気にしすぎて、お客さまの立場に立つことを忘れているのではないかと思うんです。
例えば先ほどのスライサーの場合なら「独自のクランク刃」といわれても、使う側にとってはなんのことかわかりません。だけど、その刃によって「かたい野菜でも切れ味がいい」などのメリットがもたらされているはずです。使う人が知りたいのは、そういう情報ではないでしょうか。
サービスや商品の特徴を伝えるときには、使う人の立場になって伝える。一見、当たり前のようなことですが、実際にはなかなか難しい。だから、メーカーという「作り手」と販売店という「伝え手」がいるんだなと思ったのでした。