私は毎朝、起きるとラジオをつけます。10年くらい前にテレビが壊れて以来、わが家にはテレビがなくて、代わりといってはなんですが、ラジオをつけっぱなしにしていることが多くなりました。
平日の朝のラジオ番組って、ビジネス系の情報が多いです。学者さんや経営者の方がゲストとして登場するコーナーもあります。
ある日、そのゲストコーナーに、若い男性経営者が登場しました。とてもさわやかな話し方で、ラジオだから顔は見えないけど、きっとイケメンなんだろうな、という感じの方でした。
私はいつも「ながら聞き」なのですが、ものすごく(悪い意味で)耳に残った言葉があります。
それは、その若手経営者の方が仰った「前述のように」という言葉です。
おそらく、番組の担当者から事前に質問事項をもらって、自分でその答えを文章にしていたのでしょう。その「書きことば」をそのままラジオでしゃべっちゃったんですね。
当然ですが、ラジオの場合は「書きことば」は「話しことば」に直さないと、意味が伝わりにくくなります。「前述のように」という言葉は、目で見ると「前に述べたように」とパッとわかります。でも、ラジオのように耳で聞いている場合には、「先ほども言いましたが」と言い換えなくてはならないんですね。
実は、この経営者の方の例なら、「前述のように」の部分だけではなく、それ以降の意味もリスナーに伝わりにくくなるんですよ。
ご本人は「前述のように」と言ったつもりでも、「ゼンジュツ」という言葉は、一般的には書きことばなので、耳で聞いている場面ではあまり登場しません。だから、リスナーの頭の中に「え?いま、ゼンジュツって言った?ゼンジュツって、なに?」と疑問がわきます。
人は、自分の頭の中に疑問がわくと、意識が疑問の方にとられてしまいます。だから、わからない言葉が出てくると、その後の話が頭に入ってこないんです。
実際に、私はこの若手経営者さんのお話をほとんど覚えていません。覚えているのは「この人、ラジオで『前述のように』って、すごく自然に言っちゃったなぁ。どこかのプレゼンでも言っちゃうんだろうなぁ」と思ったことです。
せっかくいい話をしていても、言葉ひとつで台なしになってしまいます。誰かに何かを伝えたいと思う方は、普段から「書きことば」と「話しことば」を意識しておきましょうね。