よく行く居酒屋さんに、張り子でできた福島の伝統玩具「赤べこ」があります。
写真に写っているこの赤べこは、プロが作ったもの。そして、この店にはもうひとつ、写真には写っていない赤べこがいます。
それは、この店の店主が福島へ旅行に行ったとき、店主の子どもが作った赤べこです。旅行中、伝統工芸を体験する場所に立ち寄り、そこで赤べこの絵付け体験ができたのだそうです。
その赤べこは、決して上手といえるものではありません。だけど、その子が作った、唯一無二の赤べこです。
その唯一の赤べこは、絵付け体験でできたわけです。だから、きっとその体験のとき、プロが絵付け方法を教えてくれたと思うんです。だけどもちろん、プロと同じようにはできませんよね。
でも、それでいいと思うんです。その子は、プロから教えてもらって、その子なりの作品を創り上げたわけですから。教えてもらって、自分で考えて、自分で手を動かして。
そういうことって、子どもだけじゃなくて大人も、人生のいろんな場面で出くわすんじゃないでしょうか。誰かに教えてもらって、自分で考えて、自分で手を動かさないと、作品はできない。つまり、結果は出ない。
私はこれまで、たくさんの取材をしてきました。特にここ数年は、ビジネス雑誌の仕事で、「ジリ貧からなんとかして抜け出し、今は成功している企業やお店」を取材することが多かったんです。そういう成功体験の過程を当事者からうかがって、読者に読んでもらうことで「ああ、自分もそうやって成功したい」「自分もできるかも」と思ってもらうためです。
だけど考えてみれば、私がこれまで取材してきた企業やお店の事例は、いろんな人の、それぞれの正解です。それらは、多くの人たちのヒントにはなるけれど、そのまま答えになるわけじゃないんですよね。
読者が所属する会社やお店と、私が取材した会社やお店は、たとえば業種は同じでも、立地も、扱う商品も、お客さまもみんな違うはずです。
だから、成功した会社やお店の体験談を読んだとしても、それをそのままマネできるわけじゃない。「自社だったら、自店だったら、どうすればいいかな?」と考えなくちゃいけないですよね。そして、その考えたことを実践する。
つまり、前述の「赤べこの絵付け体験」と同じです。誰かに教えてもらって、自分で考えて、自分で手を動かす。
この「自分で考える」というところを省いて、ただマネだけしていても、うまくいかないと思います。成功したところと、まったく同じ会社やお店なんて、ゼッタイにないですからね。
誰かの成功体験を聞いたり読んだりしたら、ただ単に「うらやましいな」と思うのではなく、「自分だったら、どうするかな」と考える。そして、考えるだけじゃなくて、自分で動いてみる。つまり、試行錯誤するしかないんだと思います。
どうして今、改めてこんなことを書いたのかって?
それは今、私自身が試行錯誤しているからです。これから、ライターとして生き残っていくには、どうすればいいのか、と。
誰かに教えてもらったら、自分で考えて、自分の手を動かして、作品を創り上げる。そうやって、答えを見つけていくしかありません。改めて今、そう思っています。