その日、新幹線のドアが開くと、大阪の空気はムッとしていました。気温も湿度も高く、まるで亜熱帯のようだったのです。
その日は、東京も雨で、湿度は高かったのですが、気温は低かった。半袖ではちょっと肌寒いくらいだったと思います。約2時間半、新幹線に乗ってくると、こんなにも気候が違うものかと思いました。
私が大阪を訪れたのは、友人に会うためでした。「改札口で待ってるね」という友人からのメッセージを確認して、ホームの階段を下り、改札へ向かいます。
改札の向こうに、友人の顔が見えました。彼女は、スマホを見ていて、私に気づきません。そ~っと近づいてから「来たよ~!」と声をかけました。「わ!ごめん!スマホ見てた~。わざわざありがとう!」久々の再会に、私たちは思わずハグをしました。
それからは彼女の案内で、大阪の梅田でも難波でもない、住宅地にある和食料理店へ。最初はビール、その後は日本酒をのみながら、ハモをはじめとする関西の和食に舌鼓。二次会は、これまた彼女の案内で、おもしろいマスターがいるスナックへ。食べて飲んで歌って笑って、夜は更けていきました。
実はその日、私が大阪に行ったのは、仕事で落ち込んでいた彼女を元気づけるためです。普段はメッセージや電話でやり取りしていますが、数日前、彼女の言葉からただならぬ雰囲気を感じたので、会いに行ったのでした。
気温も湿度も高い、ムッとする空気を吸ったり、ギュッとハグをしたり、同じ料理を食べて「おいしいね~!」って言ったり、ユニークなマスターのおしゃべりにゲラゲラ笑ったり…。リアルで会うという意味を、これほど感じたことはありませんでした。
これから技術が発達して、遠方にいても、まるで近くにいるように感じられる時代が来るのかもしれません。でも、空気感や触感、味覚や匂いは、リアルでなければ感じられないと、私は思います。そしてそれらこそが、人の記憶に直結するものだと思うのです。
翌日、改札口まで見送りに来てくれた彼女は「わざわざ来てくれて、ありがとう」とニッコリ笑っていました。その笑顔だけで、ああ、私が大阪に来た意味があったのだと、心からうれしくなりました。