これは3年半ほど前、沖縄で出会ったおじーの話です。
那覇市の波の上ビーチを訪れた(私の場合は「帰った」という感じですが)時、見ず知らずのおじーが、私にオリオンビールをくれました。
波の上ビーチというのは、那覇市内にある白い砂浜のビーチで、ビーチは海に向かって、コの字型に岩場や防波堤で囲まれています。方角でいうと、青い海に向かって左側が南、背側が東、右側が北にあたります。
この写真の時は、沖縄が梅雨明け間近の6月。すでに陽射しは真夏の様子でしたが、私は久々の青い海を正面から見たくて、最初はビーチの東側にある、コンクリートの防波堤の上に座っていました。
でも、さすがに陽が高くなって、暑すぎたので、北側にある木陰へ移動。そこに、自転車に乗ったおじーがいたのです。
おじー「ねえさんは、どこから来たね~?」
私「東京からよ~。でも、前は長らく沖縄に住んでいたから、シマナイチャーよ~」
おじー「あい、本当だねぇ。ねえさんのしゃべり方は、沖縄人みたいさ~。まだ帰らんで、ちょっと待っていてね~」
おじーはそう言うと、うれしそうに自転車に乗り、近くの売店へ行って、オリオンビールを買ってきてくれたのでした。
私「おじー、ありがとうね。お金払うさ~。」
おじー「なんで~、いいさ~。アンタが沖縄に帰ってきたから、乾杯しようと思って」
そう言うと、おじーは自分のビールと私のビールをコツンと合わせて、乾杯したのでした。そして、こんな感じのことを言ったのです。
おじー「この場所は、とってもいい風が吹いているでしょう?風に乗らんと、飛行機も飛べないし、船も進まんからね~」
その日の風は、南風。私が「青い海を正面から見たいから」と東側のコンクリートの上に座っていた時には、風を感じることはありませんでした。北側の木陰に移動したから、南から北へ抜ける風を受けることができたわけです。
もしかすると、おじーは私が東側に座っていたのを見ていたのかもしれません。そして「あんなところに座って、風も通らんのに、暑くないのかね~」と思っていたのかもしれません。
自分の目的を果たしたいからと、ガマンしてガマンして、そこに踏ん張っているよりも、ふと自由に動いてみたら、誰かと出会った。風に乗れた。波に乗れた。そんなことが世の中には時々あります。
オリオンビールをくれたおじーは、私に「意固地にならないで、風に乗りなさい」と教えてくれたのではないかと、今でも思っています。