私が沖縄に住んでいた頃に、テレビで見た対談で聞いた、忘れられない言葉があります。
それは確か、当時の沖縄県知事、大田昌秀さんと、とあるジャーナリストとの対談でした。
ジャーナリスト「沖縄県は、毎年、平均年収が全国で最下位ですよね」
大田知事「ええ。そうなんです。でも、沖縄の人たちは不幸せには見えないですよね」
正確にこう仰ったわけではないかもしれませんが、大田元知事はこういう感じのことをニコニコと、あの穏やかな笑顔で仰っていたと、私は記憶しています。
このお話の時に、大田元知事は「海外には、沖縄の平均年収よりも低い国があります」というようなことも仰っていました。日本国内と比べるのではなく、海外と沖縄を比べているわけですね。
大田さんが知事だったのは、1990~98年。今から20年以上も前のことですが、その当時、沖縄に住んでいた私は「平均年収は低いけど、不幸せじゃない」ということを仰った大田知事の言葉に、とても納得したのです。
そして、それは私にとって、今でも変わらない思いです。
確かに沖縄は、数字だけ見れば、今でも平均年収は低いです。けれど、多くの人が笑顔で生活している。ひとことで言えば「人間らしい」と私は思います。
今、私は東京に住んでいて、街にも、駅にも、電車の中にも、たくさんの人がいます。でも多くの人が、どこでもスマホばかり見ていて、楽しそうにしている人が少ない。なんで多くの人がこんなにいつもピリピリして、眉間にシワを寄せて、つまらなそうに過ごしてるんだろうと思います。
仕事が忙しいから?人間関係が大変だから?
私は以前、東京のとある街の、とても高級なマンションに住む女子大生の家にお邪魔したことがあります。裕福な両親のもとに生まれた一人娘の彼女は、一人暮らしをしていて、何でも持っています。バッグはブランド物だし、ゲーム機も何種類も持っているし、スマホだって、最新機種です。
でも、高級マンションの彼女の部屋は、荒んでいました。いろんなモノはあるけれど、それらが積み重なって使えなくて、ホコリを被っていました。そして何より、彼女はとてもワガママで、すぐにキレる人でした。
年収が高いって、そういうことが当たり前なんでしょうか?
そういう例は、彼女だけではありません。お金がたくさんあるから、幸せになれるっていうわけじゃない。東京に住んで、いろんな人をたくさん見て、私はそう思います。
沖縄の平均年収が低くてもいいじゃないか、と言っているわけではありません。もちろん、年収は高くなった方がいい。けれど、お金のことを追い求めるあまり、「何が幸せなのか」を見失ってはいけない。東京に住んでいる私は、そう思うのです。