新宿を歩いていたら、とてもPOPな浴衣を着て、帽子を被り、サングラスをかけたステキなお姉さんが、私の正面から歩いてきた。
「うわ~、ステキ!」と思って、すれ違いながらジーっと見た後、私は思い切って声をかけた。もちろん、見ず知らずの方である。
「すみません。浴衣と帯がとてもステキなので、写真を撮らせてください」
彼女はいいですよ、と言うと、快く撮影に応じてくれた。その時に撮影したのが、この写真である。
もし、あの時に私が声をかけていなかったら、この写真は残っていない。後日、「ああ、あの時に新宿で見かけたお姉さんの浴衣、ステキだったなぁ。私もああいうのが欲しいなぁ」と思っても、デザインが個性的過ぎて、着物屋さんで説明するのが難しいと思う。
けれど、思い切って声をかけたからこそ、この写真が私の手元に残っている。「やっぱり、こういう浴衣が欲しい」と思えば、着物屋さんにこの写真を見せるだけで、似たようなデザインのものを探してくれるだろう。
これと似たようなことが、取材現場でも起こり得る。
私はどんな媒体の取材時でも、取材相手に会った時に「こんなことを聞いたら、図々しいかな」と思うようなことも、その場で聞くことにしている。「後で電話かメールで質問できるし…」と思っていると、現場での直感が働かない。取材の主旨とはあまり関係がないことでも「今回の取材からはちょっと離れるんですが…」と前置きして、質問する。
なぜなら、その方に会うことが最初で最後になるかもしれないからだ。最初で最後にはならなくても、小田和正さんの曲ではないが「あの日、あの時、あの場所で」というシチュエーションは、本当に一度きりである。その時に聞いておかなければ、質問の答えが違ったり、質問しても答えてもらえなかったりするかもしれない。
そういう現場を、いくつも経験してきたからだろうか。この写真のように、取材ではなくプライベートでも、「今しかない!」と思えば、少々、図々しく行動できるようになった。そうすることで、「あの時にやっておけば…」「あの時に聞いておけば…」という後悔をしなくても済むようにしている。