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花火大会のパブリックビューイング

隅田川花火大会が、台風の影響で延期になったというのを聞いて、思い出したことがある。

 

数年前の隅田川花火大会の日のこと。当時は(今もだが)一緒に花火を見に行こうと誘ってくれる人はいなかったが、浴衣だけは着たくて、友人が経営するバルへ浴衣姿で行ったことがある。

 

都心にあったその店は、いつもはそれなりにお客が入っていたのに、その日は案の定、普段の週末よりも人が少なくて、私以外には、常連客のご夫婦が1組いるだけだった。

 

「お!浴衣なんて珍しいね」と、友人でもある店主が言うと、ご夫婦の旦那さまの方が「そういえば、今日は隅田川の花火じゃないか?」と仰った。そのご夫婦は以前、隅田川の花火がよく見える知人の家で、毎年のように花火を見ていたのだという。

 

「あ、テレビ中継、やってますかね?」店主はそういうと、何やら機械のスイッチを操作した。すると店内の白い壁に、プロジェクターからテレビの映像が映し出された。隅田川の花火の映像だ。

 

「ドーン」という音は小さいが、涼しい店の中で花火を見ながら、みんなで飲んでおしゃべりをして、いい時間を過ごしたのを覚えている。まるで、スポーツのパブリックビューイングのようだった。それは、そこにいたみんなが「花火によって」一体となれたからだ。

 

ところで先日、SNSの投稿に「花火は人混みばかりだし、暑いから、キライだ」というものがあった。確かに、そうだ。私も人混みが嫌いなので、今でもめったに花火大会には足を運ばない。「花火=人混み」という共通認識を持つ人は多いだろう。

 

けれどやっぱり、夜空に輝くあの一瞬の美しさは、何とも言えず大好きだ。それは、多くの人がそうだと思う。「花火=きれい」という共通認識も、またある。

 

だからできれば今年は、現場か、現場の近くで、あの音と振動も体感したいと思っている。単に「きれいだから見に行く」のではなく、これからの表現の糧として。