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ライターはじめはショーのお姉さん?

 

今でこそ私は、東京でなんとか食べていけるライターになったが、ここまでの道のりは順風満帆だったわけではない。おそらく、新聞社や出版社を経てライターになった方々とは、かなり違うライター人生だと思う。

 

私がライターになれたのは、若い時に地道な、でもユニークな訓練をしなければならなかったからだ。ライターの訓練、というよりも、目の前にあることを言葉や文章にする訓練の最初は、キャラクターショーのお姉さんになるためだった。

 

沖縄に住んでいた大学生の頃、私はアルバイトであのお姉さん(MCという)をやっていた。ショッピングセンターのイベント会場などで行われる、戦隊ものやアニメのキャラクターショーの前座。「会場のみんな~!こんにちは~!」と、元気よくあいさつする、あのお姉さんである。

 

MCの役割は、集まった子どもたちをショーに集中させることにある。子どもたちのワクワク感を高めるのと同時に、ショーの最中はステージに上がらないことなどの注意事項を、マイクを通して明確に伝えなくてはならない。

 

キャラクターの着ぐるみに入る人は、台本通りに動くが、MCには台本がない。基本的なフォーマットはあるが、ほとんどがアドリブだ。これは、ショーが行われる会場がその都度違うから、集まった子どもたちに呼びかける事柄も違うからである。

 

しかし、何の経験もない大学生が、いきなり大勢の子どもたちの前で、台本もないのにマイクを持ってしゃべれるわけがない。では、どうするのか。

 

その当時、私が先輩MCから教えられたのは「家にいる時でも、目の前にあることを、子どもたちに話しかけるように、言葉にして口に出しなさい」ということだった。

 

例えば「はい、それではお姉さんが、これからみんなに飲んでもらうアイスコーヒーを準備します。まず、透明なグラスを食器棚から出して、次に冷蔵庫を開けます。冷蔵庫の中の、ドリンクを入れるポケットには…アイスコーヒーが…ありました!では、これをグラスに注ぎますね…」という感じである。

 

不思議なことに、この訓練を毎日家でやっていたら、いつの間にか、目の前にあることを自然に言葉にして、人前でしゃべれるようになっていた。

 

このアドリブの訓練が、後にテレビ局で仕事をするようになってから、とても役に立った。目の前にあることをそのまましゃべるというのは、スポーツなどの「実況」の練習と同じだ。やってみるとわかるが、実はそう簡単なことではない。この訓練ができていたおかげで、私はニュース番組で生中継のコーナーを担当した。

 

そしてさらに、目の前にあることを言葉にする、文章にするというのは、原稿を書く際の「描写」でもある。どのくらいの大きさの、どんな色の、どんなものが、どこに、どのようにあるのか。

 

写真や映像を伴わない文章の場合、そのシチュエーションをわかりやすく表現しなければ、読者の頭の中にその場面を想像させることができない。私が今、その文章を自然に書けるのは、あのキャラクターショーのお姉さん時代の、あのユニークな訓練があったおかげだと思っている。