“「将来、私の人生を朝の連続ドラマにしたとき、これくらいの試練がなかったら、脚本が半年持たないわ」と思ってしのいできた。”
これは、この本「英雄の書」(ポプラ社)の一節である。私は、今まさに、この言葉を糧にして、なんとか生き延びている。
この本の著者、黒川伊保子さんは、人工知能を研究した、脳科学の専門家だ。本書は、日本の若者たちに向けて書かれたもので、“失敗がドラマの始まりであることを、脳科学を使って証明してあげたい”(本文)という黒川さんの想いがある。
若者向けに書かれたものだから、というのもあるのだろう。文字が大きく、行間も広く、とても読みやすい。そして、若者向けに書かれたものだけれど、私は何かあるごとに、この本を開いて、勇気をもらっている。
私にとって、何かあるごとに開く本、というのは何冊かあるのだが、この本は特に、仕事などがうまくいかない時や、落ち込んでいる時に開くことが多い。そういう時に開くと響く言葉が、たくさん載っているからだ。そして、今がその時なのだ……。
冒頭の一節の他にも、こんな言葉がある。「脳が進化するには『失敗』が必要なのである」という小見出しの一節だ。
“この世のどんな失敗も、脳の成長のためにある。失敗の数が多いほど、そして、失敗の「取り返しのつかなさ」が深刻なほど、脳は研ぎ澄まされた直感を手にし、その脳の持ち主は輝かしいプロになり、しなやかな大人になる。したがって、「失敗」は、恐れる必要がない。”
これは、脳が“失敗すれば、失敗に使われた脳の関連回路に電気信号が流れにくくなり、失敗する前より、失敗しにくい脳に変わる”(本文より)からだそうだ。ものすごく科学的である。
そして、“成功すれば、成功に使われた関連回路に電気信号が流れやすくなる(中略)これこそが、物事の本質を見抜く洞察力の回路に他ならない。超一流のプロたちが持つ力だ。”
もう、この部分を読んだだけでも、勇気百倍である。
失敗は恐れる必要がなく、ただひたすらに、成功を成功として積み重ねればいい。そうすれば、輝かしいプロになれる。
何のプロになるのかは、人それぞれだと思う。黒川さんは、こうも仰っている。
“この世に、あなたの脳は、たった一つ。あなたの人生のものがたりも、たった一つだ。”
何を信じるか、信じないか、人によって違うかもしれないが、私はこのような「自分に響く言葉」を信じて、これまでいろんなことを乗り越えてきた。そして今回も、この本と、黒川さんの言葉を信じて、今の苦境を乗り越えようと思っている。