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「ふるさとを元気にする仕事」と、まちづくり

大きな書店で平積みにされていたこの本を見かけた時、「ふるさとを元気にする仕事」というタイトルに引かれた。

さらに、裏表紙には「さびれた商店街、荒れた森林、失われた伝統……。転換期にあるふるさとのために、できることは何か」とあった。これを読んだだけで、涙が出そうになった。

私は現在、東京に住んでいて、仕事も東京の取引先からご依頼いただくことがほとんどだが、地方の会社や店に取材に伺うことが多い。何より、私自身が地方の出身で、30代までは仕事も地方だった。

仕事でもプライベートでも、訪れる地方の町や村は、少なからず、上記のような問題を抱えている。

この本の著者、山崎亮さんは「地域の課題を地域に住む人たちが解決するためのコミュニティデザインに携わる」という方だ。わかりやすくいうと、地域再生の請負人といったところで、具体的に山崎さんがどの地域に関わったのか、ぜひ本書を読んでほしい。ただし、山崎さんは「まちづくり」という言葉は使っていない。


本書の中に「コンサルタントに非ず」という小見出しがある。その中から、山崎さんが自分の名刺に「まちづくり」を入れなかった理由を引用する。

“役所の職員でさえ読む気にならない総合計画書をつくるまちづくりコンサルタントも存在しているのです。また、住民参加と言いながら、単なる説明会でしかないワークショップを開催している業者もいた。それは僕がやりたかった活動とは、明らかに違っていた”

私はこの一節を読んで「まさに!」と思いだしたことがある。

 

私が沖縄でテレビ局の報道部リポーターをしていた10年以上前のこと。ある地域のまちづくりに関する住民説明会を取材したことがある。報道陣には、説明会に参加した住民にも配られる資料が渡されるのだが、これがまさに「役所の職員でさえ読む気にならない総合計画書」だった。数字やグラフが多く、都市計画の専門用語も多く、文字が小さいのに分厚くて、全くもって読む気にならない資料だったのだ。

 

私は地元のメディアだったから、この資料をつくったのが役所の職員ではなく、「東京のコンサルタント会社」だということを知って、「ああ、やっぱり東京の人は、まちづくりの専門家かもしれないけれど、このまちのことは何にも知らないんだな」と思ったことを覚えている。だって「住民説明会」と言いながら、住民がわかるはずもない資料を作るのだから。

 

しかし、本書の著者である山崎さんは違っていた。しっかりと住民から話を聞き、時にはその土地に何日も泊まり込んだりして、地域の中に入り込む。そして、住民が自ら動けるような仕組みや仕掛けをつくり、地域の人たちが「もう自分たちでやっていけるから、あんたたちは必要ない」(本文より)と言われるまでやる。それが彼らの最終目標なのだという。

だから「地域の課題を地域に住む人たちが解決するための」仕事なのだ。山崎さんは自分たちを「風の人」という。“風は外から食料や文化や技術などの種を運んでくる”(本文より)からだ。

また、この本の中には、山崎さんや彼の事務所の方々だけではなく、その土地に移り住んだり、もともとその土地の人でも新たな考えを外から入れたりして、ふるさとを元気にしている人たちも紹介されている。山崎さんはそういう方々を「土の人」と呼ぶ。“(風が運んできた)種を土が受け止め、芽を出すように長い年月をかけて育む”(本文より)からだ。

「風の人」と「土の人」が合わさって「風土」ができる。地域の再生は、新たな風土をつくりだすことのようである。